クリスマス・パン (2)

遅なってもうたな、急ごう。右サイドの高い位置でボールを受け、ドリブル突破を試みるも大失敗、相手にボールを渡しちゃってカウンター、慌てて猛ダッシュで守備に戻る、そんなとき以上のスピードでクラブハウスを目指す加地さんだったが、しばらく走ったところで、反対側の歩道の景色に目を留めて速度を落とした。

5歳くらいだろうか。薄いピンクのダウンジャケットを着た小さな女の子が、お母さんに叱られて泣いている。「だからお家帰るまでがまんしい言うたやろ」。女の子の足元のアスファルトには、ひと口かじっただけのメロンパン。どうやら歩きながら食べようとして落としてしまったようだ。

かわいそうやな…。どうしよう、このメロンパン、あげようか。でもみんなが待ってるしな…。加地さんは少し迷ったけれど、結局道路を横断し、女の子の前にしゃがみ込んで声をかけた。

「どないしたん?メロンパン、落としてもうたんか?」

泣いたままうなずく女の子。

「しゃあないな。ほら、お兄ちゃんからプレゼントや」

レジ袋からさっき買ったメロンパンを取り出して差し出すと、女の子は一瞬驚いた顔を見せたが、すぐに笑顔になりそれを受け取った。

「あ、いえ、そんな…」

「まあまあ、お母さんも今日はそんな怒らんで。クリスマスやないですか。お母さんにも、はい、ジャムパン」

「ご親切にどうもすみません…あれ?あなたもしかして…」

やばい、僕やってバレてもうたか。プライベートではサインや写真は断るんやけど、まあ今日は特別や。クリスマスやしな。

「…あなたもしかして、パン屋のアルバイトの方?」

バレてへんかった。

「え、ああ、まあ、似たようなもんです…」

じゃあ、配達の途中なんで。そう言って立ち上がり、加地さんはクラブハウスを目指してまた走り出した。

「パン屋のお兄ちゃんありがとう!」

振り返ると、メロンパンをしっかりと持ち、すっかり笑顔になった女の子が手を振っている。

「メリークリスマス!」

手を振り返し、加地さんは全力で駆け出した。

*  *  *

「お待たせー」

「おかえりー」「遅セーヨ」「腹へったー」クラブハウスのドアを開けると同時にチームメイトが一斉に加地さんに群がり、自分が頼んだパンをレジ袋から持っていく。あ、そや、ヤットにメロンパンのこと謝ってもう一回買いに行かんと…「ヤットごめん、実はな」言いながら振り返った加地さんが見たのは、遠藤の思いがけない姿だった。

メロンパンをほおばっている。

「このメロンパンうまいな。どこの?」

「え、あの、えっと、穴場のパン屋見つけてな…」

そんなばかな。確かにさっき、ひとつだけ買ったメロンパンをあの女の子にあげたはずなのに。違うパンをあげたのか?でもそれなら誰か他のチームメイトのパンが足りなくなっているはずで、でも見渡す限り全員がおいしそうにパンを食べている。「今日のは焼きそば大盛りやな」モグモグ、「懐カシイナー、ポンデケージョ」ムシャムシャ。

おかしいな…加地さんはレシートを確認しようと、ポケットに押し込んだそれを取り出して広げてみた。なんや、そうか、そうやったんか…。加地さんはこみ上げてくる笑みを抑えることができなかった。レシートを見てニヤニヤしている加地さんを不審に思った遠藤に「どうした?」と聞かれたけれど、加地さんはなんとなくそれを自分の胸だけにしまっておきたくてごまかした。

「いや、なんでもない。今日はクリスマスやなー思って」

レシートの合計金額の下の余白に、小さくボールペンで書いてある。

“メロンパン一個オマケ。
メリークリスマス。三田”

じいさん、粋なことしてくれるやないか。おかげで助かったわ。どれ、じいさんのジャムパン、いただいてみるかな。

…あ、僕のジャムパン!

サンタさーん!

「クリスマス・パン (2)」への22件のフィードバック

  1. 何気にいろんな生地を扱ってるパン屋じゃないですか…食パン焼く型と釜までありそうな…(業者から配送されてるのをそのまま売ってる「自家製」パン屋がほとんどですよね)
    ジャムパンもきっとおいしかったんでは。のがすな加地さん、走れ!

  2. 心温まるクリスマスのお話、、、短編集だせそうです、kajidaisanji さん。

  3. も〜、ミラクルkajidaisanjiさんたら。
    引き出し、多いっすね。

    絵本を読んでいるようでした。
    素敵なクリスマスプレゼントをありがと!

    高原本の時間差爆撃話は、思わず吹きました。
    今、起こっているかのようなLive感溢れる描写に、
    見事なオチに。
    やられたぁ〜(~o~)

    ところで、日経新聞インタビューによれば
    機械音痴の加地さんもとうとうパソコン&ネットデビューされたようです。
    ・・・このアジトが見つかるのも時間の問題ぢゃ?

    で、アバターのおつむりの上の葉っぱは何のおまじないでしゅか?

  4. 夜中目が覚めてここを覗いたのですが、kajidaisanjiさんの才能に改めて脱帽。
    街の景色やスピード感、選手の口調など、目に浮かぶようでした。なんだかいい夢見られそうです。
    kajidaisanjiさんもここに来る方々も、ジャムパン食べれなかった加地さんも、メリークリスマス!

  5. 積みに積み重ねた小ネタひとつひとつがいい味を出してますね。
    天皇杯の準々決勝を録画失敗してしまい、試合を見ることが出来なかったのですが、
    無事準決勝に駒を進めてくれたおかげで、もう一度見るチャンスが生まれました。
    今度こそ虹を描くようなクロスを、とサンタさんにでもお願いしておきます。

  6. 加地サンvvvv
    優しぃ—–
    心温まるお話ですね
    加地サンもkajidaisanjiサンも、メリークリスマス★☆

  7. 心が温かくなる素敵なクリスマスプレゼントをありがとうございます☆☆

    「三田パン店」でパンを買いたくなりました。
    お使い加地くんと運よく会えるかもしれないし・・・ご主人にも会ってみたいな♪♪

  8. 心暖まるお話のプレゼントありがとうございますm(__)mそれにしてもこんな時期にまでパン買いに行かされてる加地さんって…まぁでも加地さんだから仕方ない(笑)アバター加地さんもクリスマス仕様だし(笑)

    メリークリスマス☆

  9. パン屋さんの名前がどうしてあえて『みた』なんだろって、今日ずうっと考えてて(笑)やっとわかったぁ〜! あぁスッキリ!いい夢見れそうです。

  10. 「三田パン屋」…。
    なるほど。
    細部まで凝ってますね。さすがkajidaisanjiさん!
    それにしても素敵なお話でした。
    でも加地さんのパン…(´・ω・`)

  11. こころあったか〜いお話ありがとうございました!
    今日はクリスマスイヴですが・・
    加地家は加地ちゃんと
    加地ちゃんの妹(何て言ったらええねんやろって悩みましたが)に今年は何をあげるんですかね?

    では良いクリスマスをMerry X'mas*^?^)ノ

  12. 今年は初めてクリスマスに帰省している★
    子供二人を連れクリスマスケーキを持参した★
    娘三人を嫁がせて以来、一人暮らしの母にとって丸いケーキは久しぶりらしく、心の底から嬉しそうで、、満足した半面、心がキュンと痛んだ、、、。

  13. ジャムパンなら100個位差し入れるよ。
    次戦エコパの入り口で渡したら反応してくれるかな?

  14. ジャムパンだったのね、加地さん。
    kajidaisanjiさん、いい話しをありがとうございました。
    しかし、遠藤選手が緑色のメロンパンをほおばる姿、何か違うものを想像してしまうーーー(食べちゃうぞ)

  15. 毎年kajidaisanjiサンタさんありがとうございます。
    クリスマスに読みたい本、読ませたい本。のようです。
    きょうはyuri★さんの「丸いケーキ」にウルッとなってしまいました。我が家は4人家族が3人になり・・・そのうち下の子が下宿します!!なんて家を出るまで5年位あるかなあ?それまでは「丸いケーキ」にこだわりたいと思いました。

  16. yuri★さん
    そうか、うちはまだこどもがちびでケーキなんて食べれないから丸いケーキは買えないぜ、ちっ・・・
    と思っていたけど、そのうちそういう心境になるんですね。。いいお話、ありがとうございました。
    あ、kajidaisanjiさん、いいお話ありがとうございました。(ついでじゃないです。ほんとに。)
    商店街を猛ダッシュで走り抜ける加地さんを想像しちゃいました。
    周りはびっくりだろうなあ。だって加地さんだもん。

  17. 自分のもとには今年も三田は現れませんでした。
    がお取り寄せでおいしいパンを食べました。
    そんな自分の心を温かくしてくれてありがとう、kajidaisanjiさん。

  18. ステキです☆ずっと忘れてた記憶が甦りました。近所に老夫婦がやってるパン屋があり、日曜の朝は父と散歩がてら金時豆の三角のジャムパンを買って、お寺の境内で食べるのが楽しみでした。40年も前の古いひとときを思い出させてくれて、本当にありがとさん! 最近このサイトに来たので、加地さんがなぜパン係なのかわからないのですが、過去ログ辿ればそのうちわかりますかね?

  19. 久々PC前です★ 加地さんのアバターを見て、
    すっかり大掃除モードなんで、慌てていますが、
    何か明日は雨みたいなので、明後日にします。多分;
    ・絆・さん&よもさん、、いつだって丸いケーキはあったかい気持ちになれますよね、、
    ★☆kajidaisanjiさん、たまに、ええ話をありがとう☆★

  20. >>drunkdrummerさん
    全てイモジャージの主人の手作りです。人気のジャムパンはそろそろ売り切れかも…

    >>ゆもさん
    今度どこかの公園か路上でホッチキスで留めた短編集を売ってみます。

    >>りりさん
    加地さんネットデビューですか。加地さん自身による本当の「カジオログ」開設も間近?

    >>もっちもちさん
    夜中目が覚めてしまったのは、サンタクロースの足音で?それとも羽生の光線のまぶしさで?

    >>y.mさん
    y.mさんが録画失敗するとガンバが勝つというジンクス?準決勝は録画成功しちゃいました?

    >>zoroさん
    加地さんはきっとクリスマスじゃなくてもパンを譲ったでしょうね。

    >>senriさん
    三田パン店では現在アルバイト募集中です。制服はイモジャージですが。

    >>ときさん
    師走ならぬ「加地走」。なんて読むのかはわかりません。

    >>タラさん
    え、三田になにか意味があるんですか?

    >>光さん
    え、三田になにか意味があるんですか?

  21. >>めぃ★さん
    加地ちゃんたちへのプレゼントは、やっぱり、パン…なわけないか。

    >>yuri★さん
    私も今度丸いケーキを持って田舎に帰ろうと思います。たまにはええ話を書けるよう頑張ります。

    >>プリンさん
    ジャムパン100個入りの袋を背負ったら、まるでサンタクロース?

    >>kajina07さん
    遠藤はやっぱり緑色のメロンパンですね。

    >>・絆・さん
    もうクリスマスネタがありません。サンタさん、来年のクリスマス用のネタを下さい…

    >>よもさん
    商店街を走り抜ける加地さんに誰も気がつかないのは、目にもとまらぬ速さだから?地味すぎてオーラがないから?

    >>NO21さん
    お取り寄せのパンを配達してきた人がもしかすると「三田さん」だったかもしれませんよ。

    >>ノリノリさん
    お役に立ててよかったです。加地さんパン係の起源はおそらく2006年6月3日、15日あたりの記事かと思われます。

    >>鯖の塩焼きさん
    次回からはまたいつものように私のバカさ加減に感動していただければ幸いです。

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