クロスに願いを【洋斗編2】

美織ちゃんが、覚えたての加地さんの名前をつぶやいている。「加地さん加地さん」。そうだ、加地さんに賭けをしよう。もし加地さんが、今日の試合で相手ディフェンダーにコースをふさがれたとき、いつものようなバックパスじゃなく、勇気を出してドリブルで勝負をしかけて相手をかわし、クロスを上げたら。そしたら俺は、美織ちゃんに告白する。クロスの結果はどうでもいい。勝負する勇気。そう、必要なのは失敗を恐れない勇気だ。よし、加地さん、頼んだぞ、勇気をくれ。

試合は一進一退の攻防。俺はあまり試合に集中できない。いつも以上に、加地さんを目で追って、応援してしまう。試合結果よりも、今日は加地さんの勇気が俺にとっては重要なんだ。なかなかチャンスにからめないまま迎えた、後半。加地さんが高い位置でボールを受けた。相手ディフェンダーが素早く寄せてくる。行け、行ってくれ、加地さん、ここは勝負だ!

俺の心の声が届いたのか、加地さんが縦へ突破にかかった。しっかりついてくるディフェンダーを振り切り、タッチライン際で強引にクロスをあげた。やった!加地さんが勇気を見せてくれた。よし、俺も、勝負だ。隣を見ると、美織ちゃんが俺のさっきの冗談を真に受けたのか、目を閉じて何かを願っている。見つめ返されるとまた勇気がしぼんでしまう。これはチャンスだ。加地さんがくれた、告白のチャンスだ。スタジアムの歓声に負けないように、目を閉じたままの美織ちゃんに思いっきり叫んだ。

「ずっと前から美織ちゃんのことが好きだったんだ、俺と付き合ってくれ!」

とっさに出てきたのは、ありきたりの告白のセリフだった。驚いたように目を開けた美織ちゃんの表情が、照れた笑顔に変り、小さく、こくりとうなずいた。やった、加地さん、俺、やったよ!

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