小さな幸せ (3)

「ふーん」

ノートPCに写し出された表には、他にもたくさんの、誰かが誰かを思う願いや祈りがびっしりと記入されていた。

「あれ、この“加地さん”ってもしかして…」

「“加地さんがゴールできますように”。ああ、加地さんって、スポーツ選手の人ね。この願いは毎年多いんだよなあ」

「え、そのわりに全然ゴールしないじゃないですか。ちゃんと加地さんに幸せ届けてんですか?」

「いやいや、別に願いがそのままの形で届くとはかぎらないんだ。なるべく願いに沿った幸せをプレゼントできるようにはしてるけどね。加地さんの場合、肝心のゴールが見当たらないんだよ。だからしかたなく、“試合中手に取ったペットボトルのドリンクが常に満タン”っていう小さな幸せを届けてるんだけど。それにしてもどこにあるのかなあ、ゴール。いつも探してるんだけどいないんだよ、テープ持って立ってる係の人」

「テープ…ってマラソンのゴールかよ!加地さんはサッカー選手!みんなが願ってるのはサッカーのゴールのことだよ!」

「え、マラソン選手じゃないんだ?どおりでおかしいと思ったんだ、やけに折り返しの多いマラソンだなーって。ぶはは。そっかそっか、じゃあ今度はちゃんとゴールできるようにしとくから。あのネットに入れればいいんだろ?」

「どっち側のネットでもいいってわけじゃないですよ。っていうかさっきからなんですか“ぶはは”ってその笑い方。サンタは“HO-HO-HO!”とかって笑うんじゃないの?」

「え、ぶははなんて笑ったかの?おかしいのう、HO-HO-HO!」

「…逆にうさんくさいよ。あ、そうだ。あの、えっと、じゃあ僕の気持ちもプレゼントになって届くのかな…?」

「え、誰に?」

「あの、いや、やっぱり別にいいや…」

「いいよ、調べちゃうから。えーっと、なになに…ほほう。いや、HO-HO!」

「…それは普通に“ほほう”でいいでしょ」

「クミコさん、か。ふーん、片思いね」

「す、すげー…ちゃんと分かってんだ…」

「恐れ入ったか、HO-HO-HO! あー、でもね、これ、ダメだわ。不適合」

「え?なんで?」

「言ったろ、“純粋に誰かの幸せを願う気持ち”って。純粋っていうのはつまり、見返りを期待しない、って意味だよ。あんたのはそうじゃない。つまり“不純”ってことだな、ぶはは。いや、HO-HO-HO! まあ愛とか恋なんてたいがいが不純なもんよ。デートしたいとか、振り向いてほしいとかな。そういう見返りを期待する願いは、さっきも言ったとおり、自分で努力してそれを幸せに変えなきゃいけないんだ。それはうちらの仕事じゃない、悪いけど。まあ頑張れや、HO-KEI-野郎!」

「誰が包茎だよ!」

「で、どうする、プレゼント。どんな幸せがほしい?あ、包茎が治るとかは無理だよ。HO-HO-HO!」

「だから違うっつってんだろ!」

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