クロスマスイブ – III(4)

鈍い音がして、ボールは角度を変え、スピードを上げて飛んで行く。信吾のふんわりクロスはピンポイントで映里の頭に合い、シュートがキーパーの指先をかすめるように公園の植え込みの葉を散らし、一直線に隣接するマンションのベランダに飛び込み、サッシの窓ガラスに激突した。

「ゴール…!」
映里が小さく声を上げて喜び、信吾を見た。信吾はあっけに取られ、立ちすくんでいる。マンションの中でカーテンに近づいてくる人影があった。やばい、逃げろ!信吾は映里の手を取って駆け出した。

公園を抜け、暗い住宅街をふたりは走った。信吾は笑顔だった。映里も笑顔だった。走りながら信吾は、映里の抱えたバッグから聞き覚えのある金属音が聞こえるのに気が付いた。映里が走るのにあわせて鳴るその音は、信吾のアパートの合鍵につけられた、キーホルダーの鈴の音だった。信吾はさらにスピードをあげ、映里の手を強く握って走った。二人は互いの顔を見合わせ、声を上げて笑った。白い息を吐き、頬を赤く染めて。

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