クロスマスイブ – III(3)

「映里…なんで…」
それだけ言うのがやっとだった。信吾の知らないコートを着、髪型も変っているけれど、目の前に立つのは確かに信吾が待ち続けた映里だった。
「うん。なんか、福引で当たっちゃって。ワールドカップのだっていうから…」
信吾の背後に転がったサッカーボールに目をやりながら、映里は言った。
「…あ、うん、チームガイスト」
信吾は映里に背を向けボールのところまで歩き、言葉を探すようにそれを何度か足の裏で転がした。また風が吹き、止んだ。信吾は向き直り、もう一度言ってボールを映里の方へゆるく蹴った。
「なんで、来たんだよ」
ボールはころころと転がり、映里の足元でぴたりと止まった。だって。映里はそのボールに聞かせるように言った。
「だってさ、信吾のふんわりクロスをゴールできるの、私だけでしょ」
下手くそなトウキックでボールを蹴り返す。右にそれて行くそれを、脚を伸ばしてトラップした信吾が顔をあげると、そこにはなつかしいいたずらっぽい笑顔があった。
「へー、怖くて目、つぶっちゃうくせに?」
今度は映里がトラップできないくらい強めに、ボールを転がした。映里はそれを不器用に脚で止め、やり返すようにまた強く蹴った。
「だからつぶってないって言ってるでしょ」
ボールは、信吾ではなく、砂場の方へ向かって勢いよく転がった。走ってボールに追いついた信吾は言った。
「どっちみち、俺の加地さんゆずりのふんわりクロスは、そう簡単には触れないんだって」
夜空めがけて、思いっきりボールを蹴り上げる。信吾はいつかのような笑顔でそれを見上げた。高く舞い上がったボールは一瞬空中で停止し、時間を巻き戻すようにゆっくりと落ちてくる。その先には映里の笑顔があり、ボールめがけてジャンプするのだけれど、目をつぶってしまう。信吾はこの笑顔を、二度と手放したくはないと強く思った。

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