クロスマスイブ – II(1)

クリスマスイブの前夜、早川家のダイニングでは、息子の駿を寝かしつけた後、父親と母親のふたりによる緊急家族会議が開かれていた。

「ダメだな。今年の練習はもう終わってて会いに行くのは無理だ。チームにも電話してみたけど、そういうのはお断りしてますって。オークションは、どうだ?」
「ダメね、見当たらない。それに今から落札したんじゃ、もう間に合わないわよ」
「そうだよな。困ったな…」

駿が生まれてから去年までの9回、毎年クリスマスイブの夜には早川家にサンタクロースがやってきて、寝ている駿の枕元にプレゼントを置いていった。もちろんその正体は両親なのだが、駿は疑いもせず、サンタクロースのプレゼントに毎年大喜びだった。ただ、そんな駿もここ数年は少しずつサンタクロースの存在を疑いはじめているようだ。小学校には、サンタクロースなどいない、プレゼントをくれるのは両親だと話して聞かせる友だちもいるのだろう。学校から帰るなり、サンタクロースってお父さんなの?と言い出し母親を慌てさせたりもした。その場は母親がうまくごまかしたものの、そのせいか今年は両親に欲しい物をなかなか教えてはくれず、そしてようやくイブの前日に発見されたサンタさんへのお手紙(それは駿の枕の下で発見された)で明らかになったそのリクエストに、両親は悩まされているのだった。
「かじさんのサインをください」

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